『ラ・ラ・ランド』レビュー

※多分ネタバレなし

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 音楽踊りが非日常を引き寄せ、人々をハイウェイでの渋滞という拘束状態から解放するオープニングシークエンスは、これ以上ないほどに開放感、幸福感に満ち溢れています。
 この束の間のユートピアは無名の人々によって成り立っていますが、まるで彼らの意思の疎通を遮るものなど何も存在しないかのように人々は一体感に満ちています。そこにいる人々が無名の大衆であり彼らの人種や年齢が多岐に渡っていることで、観客は「自分もスクリーンの中に入って彼らと一緒に歌って踊りたい!」と思うでしょう。主役が不在であることがこの真に祝祭的なオープニングを可能にしています(カラフルな色彩も一々華やかで楽しいです)。まさしく「純ミュージカル映画的な」シークエンスだと言えるのではないでしょうか。


 オープニングから打って変わって、映画本編はどこまでも主役の二人の物語です。
彼ら以外の登場人物がほとんど存在しないかのような語り口は、この映画が(あまりにも純粋な)ラブストーリーであることにマッチしています。
彼らは時に周囲の迷惑を顧みないような行動をとります。「恋は盲目」というやつです。
この、恋する人が多かれ少なかれ抱くであろう「世界に自分たちだけしかいない」かのような感覚は、主役の二人にだけスポットライトが当てられる演出によっても表現されます(個人的には映画の上映中にスクリーンの真ん前に立つような客に対しては殺意しか湧きませんが)。

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 この映画、お話自体はこれ以上ないほどにベタです(単純にハッピーな映画ではありませんが)。

主役のふたりは冒頭で(お互いに悪印象を抱くような)出会いを果たした後に偶然再会します。これって「あっお前は今朝の!?」」っていうやつですよね。

そのあとも映画は「夢に向かって努力する二人の恋愛模様」として王道中の王道を行きます。しかしだからと言って脚本が大味なわけではありません。最初は仲が悪かった主役二人が徐々に惹かれあっていく様が丁寧に描かれています。映画館デートを「演技の研究」と言い張るヒロインが非常にかわいらしく、そういった点は非常に微笑ましく思えました。

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 ミュージカル映画は絶ふえず日常と非日常を往き来する映画ジャンルです。舞台となるロサンゼルスは(当然のことながら様々な映画の舞台でもあるので)現実と虚構が絶えず入れ替わる土地でもあります(実際に主人公二人が『理由なき反抗』のワンシーンを模倣する場面があります。その直後の夜のグリフィス天文台におけるシークエンスではシチューエーション自体が非日常的であることからか作中の他の場面と比べてより幻想的な展開が見られます)。そんなロサンゼルスを舞台に夢と現実の、芸術と生活のはざまでもがく主人公二人は俳優として、ミュージシャンとしての成功を夢見ています。
音楽は日常を非日常に変え、俳優が演技をすればその瞬間、現実は虚構へと一変します。
そんな彼らの、出会いを、恋を、夢見る日々を描いた前半部分がミュージカルシーンという非日常で彩られているのは必然的なことでしょう。
しかし物語が進むにつれて非情な現実が彼らの夢を蝕み始めます。男は生活のために始めた仕事のためにLAにいられる時間が少なくなっていきます。スクリーンに一瞬映される部屋の天井のシミはまさしく芸術と相反するところの生活の象徴以外の何物でもありません。そして現実を突きつけられた彼らに「非日常」は不釣り合いだ、とでも言うかのように中盤から後半にかけては華やかなミュージカルシーンは(そして華やかな色彩は)鳴りを潜めます。ミュージカル映画におけるミュージカルシーンと地のシーンの対立を物語上の夢と現実という対立やLAという土地の持つ象徴性と対応させているのです。これによってミュージカル映画であることの必然性が担保されています)


 しかし時勢が飛んだラストシーンにおいて状況は一変します。これまでとは逆に現実を夢が覆い尽くすかのような展開は、それまでのミュージカルシーンが一部を除いて些か「現実的」だったこともありとてつもないカタルシスをもたらします。想像力が時間を超越し、再び二人を中心に世界が回り始める一瞬。しかしその光景はスクリーンに映された影でしかなく確かにそこに実在するものではない。この、夢の持つ力強さと儚さが同居したエピローグはオープニングシークエンスと並んでこの映画の白眉ではないでしょうか(『雨に唄えば』のオマージュシーンも素晴らしいです)。

 不満点がないわけではありません。『セッション』と同じく、監督の青臭い芸術至上主義的な価値観が鼻に付くと言えば鼻につきます。個人的にポップミュージックを下に見るような音楽観は苦手なので。
後、これは『セッション』の時も思ったのですが「夢を追う登場人物」のことを客観視できていないところがあるのかなと。ラストで主人公二人があのような状況に至っていることの説得力が少し欠けていると思いました(だからこそラストシーンは制作者からキャラクターへの「ご褒美」という趣があると思います)。
この点に関しては監督の若さゆえのものだと思います。長所でもあり、短所でもあるのであまり批判したくはありませんが。

個人的にはオープニングとラストの出来が突出していた印象です。
王道恋愛ミュージカル映画を現代風にブラッシュアップした秀作だと思います。


「ラ・ラ・ランド」本予告