Mollusk

集積所。

『ヤンヤン 夏の思い出』

 

ヤンヤン 夏の想い出 [DVD]

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  • ウー・ニエンジエン

 

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 台北に住む、それぞれに大きく、小さい問題を抱えた家族のドラマをこれ以上ないほどに美しい映像で描き切った、エドワード・ヤンの遺作。

 映画は結婚式から始まり葬式で幕を閉じるが、その間の群像劇はヤンヤンの、昏睡状態で寝たきりの祖母を不在の中心として進んでいく。

 家族は、昏睡状態の祖母に対して日々の出来事を報告するが、その行為にはどこか教会における告白のような趣がある。彼/彼女たちは祖母への報告を通じて、自身の内面を見つめ直さざるを得ない。

 祖母の死は映画のエンディングまで、遅延させられ続けるが、その遅延の中で家族はそれぞれの問題と向き合うことになる。そんな中、透明な主体としてほとんど特権的な存在感を発揮しているヤンヤン(家族の末子)の純粋さが瑞々しくスクリーンの中を躍動する。

 全編を通して、遮蔽物を画面手前に据えた、窃視的なショットが多用されている。ある時はガラス越しに、ある時は開いた扉越しに、ある時は鏡越しに捉えられる登場人物たちの姿は絶妙な距離感を保って観客に提示される。

 フレーム内にもう一つフレームが存在するかのような構図は、ショットの一つ一つを絵画のように仕立て上げるだろう。

 そして、複数のレイヤーが存在するかのような画面設計は、文字通り映画に奥行きを与え、そこで展開されるドラマから平板さを取り払い、個々の登場人物たちの関係の多層性を象徴しているかのようですらある。

 この上なく美しい構図と色彩設計に支えられた、淡い静謐な雰囲気が心地よい傑作。3時間と言わずに永遠にこの映画を観ていたいと思わされた。