Mollusk

集積所。

『エドワード・ホッパー作品集』

98点の収録作品を、8つの切り口によって分類し、解説した作品集。
エドワード・ホッパーと言うと、ある種の「アメリカ的なもの」を代表するような作品を描いた画家、という印象が強い。そんな彼のキャリアには、抽象表現主義以前の芸術後進国アメリカにおける、ヨーロッパ(フランス印象主義)への憧憬、それ故の屈折した自己意識が反映されているそうだ。初期の印象派的なタッチは、キャリアが後期に進むに連れて画面から鳴りを潜めていくが、その過程で、彼は美術界の評価を勝ち得ていくことになる。

ホッパーの絵においては、斜めから見下ろすような俯瞰構図や、窃視的な構図、そして人物の手前に配置されたモチーフが、人物に対する絶妙な距離感を演出する。そこでは、距離は孤独へと転化し、静謐な画面構成もそのはたらきに寄与するだろう。ホッパーの絵画というと、映画の霊感元になっていたり(直近では『ザ・バットマン』に《ナイトホークス》的なショットが見られた)、翻訳小説の装丁に使用されていたりすることでも有名だ。それは、(上記のような)画中の人物に対する距離感が、鑑賞者の想像力を刺激することである種の物語性を喚起した結果のようにも思える。

ホッパーの作家性、そのキャリア、アメリカ美術における位置づけ、屈折した自己意識についてを説明した序文からして、解説文は的確で分かりやすい。それぞれの章の冒頭における解説で取り上げられる他作家の作品の選定も的確。それと比較することでホッパーの作風の独自性が(あるいは影響関係が)上手く浮かび上がってくるような作品の図版が掲載されている。

巻末には、略年譜と作品リスト(タイトル、制作年代、支持体、画材、サイズ、所蔵館)、主要参考文献のページも設けられている。

ホッパー入門のニュースタンダードと呼ぶに相応しい一冊。