Mollusk

集積所。

『形象と時間―美的時間論序説 』

 造形芸術と時間の関係性を様々な角度から論じた一冊。全体は二部に分かれており、第一部では形象をささえる物質性に時間が及ぼす影響について語られている。作品の物質的側面を崩壊させる負の時間性についての議論から、時間的距離の蓄積が価値となる骨董へと話は流れ、時間の経過とともに欠損した彫刻作品を例に取り彫刻の本質を抉り出す。廃墟を論じ、ポオにおける崩壊の観念を探りながら、ヴィルスマの『砂の城』を題材に「遊び」と「芸術」の境界線を問う。緩やかに連関するテーマに沿った、流れるような構成が素晴らしい。

 第二部では、形象が表す時間の諸相について語られているが、パースの記号論に含まれる「崩壊」を論じてから、造形芸術に内在している時間性に迫っていく手際はこちらも非常に鮮やか。 副題に「美的時間論序説」と銘打たれているだけあって決して網羅的な内容ではないが、芸術と時間の関係性について幅広いトピックが様々な角度から論じられている。扱われているトピックにも(芸術と時間というテーマから考えれば)ベタなものはあるが、その扱い方に著者独自のものがあり、そのバランスが良かった。

表紙の『サモトラケのニケ』は三度引用される。