Mollusk

集積所。

『ブラッド・メリディアン』

 会話文に引用符が使用されず、読点がほとんどない独特の切れ目ない文章によって、登場人間の会話や行動は詩的な情景描写と溶け合い、均質化していく。それに加え、情念の描写の徹底的な排除によって、物語上で行われるありとあらゆる残虐行為は世界の大いなる営みの下で相対化される。その結果生じた世界に対する一種超越的なまなざしは、行間から血と泥の匂いが漂ってくるかのような生々しい殺戮に塗れた物語において、ある種の神々しさを顕現させている。

圧倒されるしかない、あまりにも大きな何か、を体験した時、人はその経験を言語化するために「崇高」という言葉を使わざるを得ないだろう。『ブラッド・メリディアン』は、読書という営為を能動的なもののままでは終わらせない、極めて「崇高」な読書体験をもたらす作品だ。