Mollusk

集積所。

『ブラッド・メリディアン』

会話文に引用符が使用されず、読点がほとんどない独特の切れ目ない文章によって、登場人間の会話や行動は詩的な情景描写と溶け合い、均質化していく。それに加え、情念の描写の徹底的な排除によって、物語上で行われるありとあらゆる残虐行為は世界の大いな…

『バーニング 劇場版』

存在するのかわからない猫や、消えた女、はっきりしない記憶、「納屋を焼く」のが趣味という告白、繰り返される無言電話、牛、フィッツジェラルドにフォークナーなど印象的なモチーフがとてもたくさん散りばめられてはいるが、それらがきちんとした線になら…

『形象と時間―美的時間論序説 』

造形芸術と時間の関係性を様々な角度から論じた一冊。全体は二部に分かれており、第一部では形象をささえる物質性に時間が及ぼす影響について語られている。作品の物質的側面を崩壊させる負の時間性についての議論から、時間的距離の蓄積が価値となる骨董へ…

『ブレードランナー』における「絶対への不信」

『ブレードランナー』を見る度に、この映画の根底には「絶対への不信」とでも呼ぶべき感覚が流れている、という印象を受ける。この映画においてはそのような感覚が様々な形で発現しているように思えるのだ。 そもそも、この映画がその物語の枠組みとして採用…

『エドワード・ホッパー作品集』

エドワード・ホッパー作品集 作者:江崎聡子 東京美術 Amazon 98点の収録作品を、8つの切り口によって分類し、解説した作品集。 エドワード・ホッパーと言うと、ある種の「アメリカ的なもの」を代表するような作品を描いた画家、という印象が強い。そんな彼の…

『アメリカン・ナルシス―メルヴィルからミルハウザーまで 』

著者の専門であるアメリカ文学についての論文集。 「神の死」以降の「自己意識」の問題を『白鯨』における(ナルシスの)鏡としての水面に探る、「白鯨あるいは怒れるナルシス」。 そこでは、自己こそが最大の他者であるというパラドックスが提示される。自…

『チャイナタウン』あるいは不可視の結末

映画において「衝撃的な結末」は、観客の日常への帰還を遅延させる。その遅延の間に映画は自身の印象を観客の脳裏に刻み込む。それは映画が取るある種の生存戦略とでも言うべきもので、『チャイナタウン』もそうした戦略を取った映画の一つである(そしてそ…

『雨に唄えば』の雨は誰のものか

劇映画において、「雨」はしばしば、登場人物の悲しみや、それに伴う涙を表現するモチーフとして用いられる。外的世界の様態に内面の感情を託すという意味で、この演出は表現主義的なものだと言えるだろう。 このような演出は伝統的だが、使い古されたもので…

『須賀敦子全集 第1巻』

須賀敦子全集 第1巻 (河出文庫) 作者:須賀 敦子 河出書房新社 Amazon デビュー作である『ミラノ 霧の風景』と著者のイタリアでの人的交流の拠点となった書店での日々を描いた『コルシア書店の仲間たち』、そして十二人の人物たちの肖像をスケッチ風に描き出…

『ヤンヤン 夏の思い出』

ヤンヤン 夏の想い出 [DVD] ウー・ニエンジエン Amazon 台北に住む、それぞれに大きく、小さい問題を抱えた家族のドラマをこれ以上ないほどに美しい映像で描き切った、エドワード・ヤンの遺作。 映画は結婚式から始まり葬式で幕を閉じるが、その間の群像劇は…